この連載について
全事研の役員となって事務職員の育成や成長ということを考える中で、学ぶことの重要性を強く認識しているところです。もちろん、体系的な研修制度も資質・能力を身に付ける上で大事ですが、まずは事務職員自身が主体的に学び、学んだことを生かして試行錯誤を繰り返していくことが必要だと感じています。「子どもの豊かな学びのためにも、事務職員として学び続けていきたい」。そんな思いで、私自身の経験から“学び”について考えたことを綴っていきます。

テレビを観ていて「DOMOTO(ドウモト)」と示されたところに見慣れた顔を見つけて、それが以前の「KinKi Kids(キンキ・キッズ)」であることを知りました。そして、ずいぶんと昔に児童とKinKi Kidsの話をしたことを思い出しました。

事務室の掃除に来た児童が、KinKi Kidsのコンサートに行きたいと、掃除の手を止めて話をしていました。チリトリを持っていきながら話に加わると、全国ツアーのチケットを手に入れるのが、大変に困難であるとのことでした。
「チケットはどれくらい発売されるの?」と私。
「どれくらいだろう、この前のツアーは全国のいろんな場所で30回くらいやったらしくて…、1回にどれくらいだったかな。30回行われるコンサート中 、半分までいかないくらいはドーム球場で行われるから、5万人くらいかな。残りは5,000人から15,000人くらいのホールだから…、だいたい70万人くらいかな。」と児童の一人が答えました。
私はビックリしてしまいました。それはKinKi Kidsのツアーの動員数のことにではなく、その児童の計算の速さにです。
「どうやって計算したの。」と私。
「コンサートが30回で、そのうちのドーム球場は半分にいかないくらいだから、10回×5万人=50万人。そしたら、残りの20回が5,000人から15,000人くらいのホールだから、だいたい1回が1万人として、20回×1万人=20万人。それを足すと約70万人だよ。」と、こともなげに答えました。
そう言われると、“10×5万+20×1万=70万”はそれほど難しい計算ではないです。しかし、その式を立てるまでの考え方をそんなにシンプルに捉えられることはすごいことだと褒めました。すると、
「だって、算数で“がい数”を勉強したもの。」と児童が言いました。
「学んだことを使えるって、すごいことだよ。」と私は返しました。
「だいたいの数を知りたいときには、がい数にして計算すれば、暗算でも全体を素早く知ることができるんだよ。」と、得意げでもなく、当然のことのように児童が言います。
そして、その後KinKi Kidsの話題に戻ることがなかったこともよく覚えています。
次期学習指導要領に向けての「論点整理」が公表されました。「多様な子供たちの『深い学び』を確かなものに」と表現されるように、柱として、「主体的・対話的で深い学び」の実装、多様性の包摂、実現可能性の確保が挙げられています。
主体的・対話的で深い学びは、2017年の学習指導要領改訂でアクティブラーニングに代わる言葉として登場したものでお馴染みですが、今回は、“の実装”がくっついています。実装とは装置や機器の構成要素となるものを、すぐにも使えるように組み込むことです。
学んだ知識や技能が他の学習や生活の場面でも活用できるように関連付けることや、思考力・判断力・表現力等を、社会や生活で直面する未知の状況でも課題解決に繋げていけるように学びの質を高めることが必要です(これらを「タテ」の関係と表現)。また、知識・技能を学ぶことなく思考・判断・表現することや、思考・判断・表現を伴う学習活動なしに、知識の深い理解と技能の確かな定着は難しいものです(これらを「ヨコ」の関係と表現)。このタテ・ヨコの関係を学習指導要領上で可視化することで、資質・能力との関係性をわかりやすく示し、それらを一体的に育成していくための単元づくりの助けとなる、教師にとって使い易いものとしていきます。そのようにして、深い学びを具現化していくことが、“の実装”の一つとして挙げられています。

多様性の包摂は、様々な個性、得意・不得意や、生活環境などの違いがあるからこそ、ひとりひとりに合った学び方ができるようにしていくことであり、先ほどの実装との両立が不可欠なものになります。そのために教育課程の柔軟な編成や実施も検討されています。

実現可能性の確保とは、上述二つの両立を支え、実現可能とする観点であり、教職員が働く環境整備も含めて、デジタル学習基盤の更なる充実、教科書や教材、指導書の改善、必要な設備の整備を進めることとしています。
今回、注目される言葉として“中核的な概念の深い理解”があります。ポンチ絵では、比例や反比例を知っていることや、一次方程式が解けることにとどまることなく、“関数を使えば未知の状況を予測できる”という中核的な概念を理解することで、身に付けた知識や技能が他の学習や生活の場面でも活用できるようになると例示されています。
先ほど書いたように児童との会話では、KinKi Kidsのコンサートの話は立ち消えになってしまっていました。それくらいに児童が話したがい数の計算に、私自身が驚いてしまったからです。今、続きを考えるなら、たとえ70万人という多くの人が見られるであろうコンサートでも、KinKi Kidsの当時の人気を思うと、チケットを取るのは難しいのかなとも思います。聞いたところ、DOMOTOになった今でも人気は衰えることなく、コンサートのチケットは入手困難とのことです。あれから四半世紀も経っているのに、多くの人に夢を与え続けていることが本当にすごいですね。
さて、四半世紀後の児童は社会人であることは当然に、キャリアを確立している頃でしょうか。仕事などで複雑な課題に直面したとしても、がい数の時と同じように把握し易いように形をシンプルに整え、状況に応じた判断や物事の見通しを立て易くして解決を図っていることでしょう。算数での学びはそんなことにも役立っているはずです。
ところで、あの時の児童は、今でもDOMOTOのファンなのでしょうか。もし、そうだとしたら、自分で稼いだお金で、ファンクラブとかにも入っているのかな。そうすると、優先的にチケットも購入できるのでしょうか。コンサートでペンライトを振って元気をもらい、その元気を周りの人々にも与えてくれていると良いなと思います。

前田先生からコメント
事務職員の標準的な職務にも示された学校教育におけるICTについて、事務職員の視点から捉えた書籍『教育ICTがよくわかる本』の発行に携わらせていただきました。それぞれに現場で実践されている事務職員の素晴らしい取組も載っています。学校の現状や、取組の背景、うまくいったこと、うまくいかなかったこと、取組を通して実践者が学んだことなど、読み手にとって考えを広げてくれる本であると強く感じています。事務職員のみなさんの学びのきっかけとなること、そして、事務職員以外の方々には、事務職員との協働や、事務職員の活用を促進していただくきっかけとなることを期待しています。